〈虎屋〉

気負わず、奇を衒わず日々、真摯に和菓子と向き合う

黒川光博
〈虎屋〉
代表取締役社長

お客さまの大切な今日に寄り添うために

室町時代後期に京都で創業した〈虎屋〉。明治二年(一八六九年)の東京遷都に伴い、京都の店をそのまま残して東京に出店した。


「私で十七代目ですが、代々、何かを頑なに守り続けてきたとか、こだわりのようなものは特にないんです。美味しいものは美味しいし、きれいなものはきれいと自然体で受けとめています」と社長の黒川光博氏は穏やかに話す。〈虎屋〉には社是や社訓というものは特にないが、文化二年(一八〇五年)に九代目が天正年間のものを書き改めたという『掟書』が残っている。これには働く者の心得が記されており、十五条から成っている。


例えば、「女性やお子さまにはより丁寧に接するように」「噂話をこちらから言ってはいけない」「将来独立することもあろうから勉強を怠らぬように」「上司が間違った時は、下の者も意見をせよ」などなど、現代でも充分に通用する内容が記されている。

また黒川家では、一代につき一人しか家業に入らないという不文律があり、代が替わるときのしきたりとともに大切に守り続けている。


そのしきたりとは、代替わりの際、新当主がたった一人で、京都の店に祀っている毘沙門天像を拝むというもの。


四十七才で代を引き継いだ黒川氏。「私も父が亡くなった時、一人で拝みました。御仏様としばし相対して、ふと思ったのです。これからは自分の代になる。自分の信念に基づくことなら、なんでも挑戦しようと……。社是や社訓がないということは、それぞれの代で責任を持ってしっかりやれ、という意味なのだと自分なりに理解しました」

“羊羹を世界へ”を合言葉に今を懸命に生きる

今、〈虎屋〉では黒川氏を筆頭に、“高齢社会とはどういうものか”を一生懸命に勉強しているそうだ。高齢者目線に立ってものごとを考えてみる姿勢が社員の中に広まりつつあり、店頭での接客をゆっくり丁寧にする、プライスカードを大きく見やすくする、開けやすいパッケージデザインの開発などに、少しずつ反映されてきている。


「私たちは一つの和菓子店に過ぎません。今日この時に、美味しい和菓子を喜んで召し上がっていただきたいという強い思いがありますが、社長一人が音頭を取っているだけではだめで、和菓子を作る者、売る者、後方支援をする者、社員一人ひとりが“自分のこととして考える”ことが大切なんです」


今、黒川氏は、壮大なプランを思い描いている。それは自分の代で結果を出すという気負ったものではなく、もっと大らかに描く夢だ。

地球の気候変動を見ていると、これからは和菓子の主な原材料の一つである小豆の確保を、世界レベルで捉えなくてはいけない。そこで考えたのが、世界中で小豆が作れないかということだった。小豆作りがその国の産業になれば経済発展につながる。ひいては、その小豆を使ってその国で羊羹を作り、美味しいと食べてほしい。“チョコレートが世界中で食べられているように、いつの日か、世界中で羊羹を食べる日が来てほしい”。それが黒川氏の夢だ。


「羊羹だって数百年も前から、先人たちが必死に作ってくれた。だから今があるのです。夢のようなこともなるようにしかならないのだから、私たちは今をしっかり生きて、頑張るほかないのです。三年後には、新しい赤坂店がオープンします。まずはここで、さまざまな夢を表わしていきたいですね。高齢者の方も、若い方も、外国からのお客さまも、それぞれに美味しい和菓子を楽しんでいただいて、心地よく過ごしていただける店にしていきたいと思います」

虎屋 オンラインストア取扱い商品一覧
  • 竹皮包羊羹『夜の梅』は切り口の小豆を夜の闇に咲く梅に見立てて菓銘がつけられた代表銘菓です。
    小倉羊羹 夜の梅 3,024円 ◆地下1階 和菓子

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  • こし餡と白餡を墨流し状に混ぜ合わせた餡は、流れる雲に見立てました。京都地区限定の菓子です。
    桃山 雲居のみち 216円 ◆地下1階 和菓子

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