「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」を楽しみにしていただいておりました皆さまへ。
4月11日から毎週土曜日に、5回シリーズでソールの言葉と作品をお届けします。ぜひ、ご覧ください。
私に写真が与えてくれたことのひとつ、それは、見ることの喜びだ。
by Saul Leiter
【第5回目・最終回 <セルフ・ポートレート>】 5月9日(土)
芸術は果てしない再評価の連続だ。誰かがもてはやされ、やがて忘れられる。
そして、再びよみがえり、また忘れ去られる。それが、延々とつづくのだ。 by Saul Leiter
離れた場所から覗き見るような被写体との独特の距離感、ガラスや鏡の作用でいくつかの時間が重層的になったように見える感覚などは、ソール・ライターの写真作品の特徴だが、自分を被写体にしたセルフ・ポートレートにも、これらのライター的な表現手法が多用されている。それは、鏡に映る自分の姿を「真実の姿」と単純に信じることができない、といったライターの慎重さと聡明さを語るものでもある。
《セルフ・ポートレート》 1950年頃
無題 年代不詳
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
私の写真が、人類の状況を改善することに貢献したことはないが、
誰かに喜びを与えているとは信じていたい。 by Saul Leiter
【第4回目 <デボラ><ソームズ>】 5月2日(土)
本があるのが楽しかった。絵を見るのが楽しかった。
誰かが一緒にいるのも楽しかった、互いに大切に思える誰かが。
そういうことのほうが私には成功より大事だった。 by Saul Leiter
ソール・ライターのアトリエ ©Yumiko Izu
<デボラ>
デボラ・ライター(愛称デビー)は、ソール・ライター誕生から2年後の1925年に生まれた。
兄の写真の中で様々な表情を見せたデボラは、20代で精神障害を患い、2007年頃にその生涯を閉じるまで施設で人生を送った。財団の発掘作業により、これまでにデボラを被写体にした写真約100点が発見されている。
ライターの心からデボラが決して離れなかったことを、この作品群は語っている。
《デボラ》 1940年代
《デボラと一緒のセルフ・ポートレート》1940年代
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
<ソームズ>
ソームズ・パントリーとソール・ライターが出会ったのは1950年代後半のことだった。
若いファッションモデルと写真家として知り合った二人。読書や絵画、音楽への共通の関心によって急速に親密になっていく。『Early Color』によるライターの成功を見ることなく、ソームズが死去する2002年まで40年以上にわたって、その関係は続いた。
《ソームズ》 年代不詳
《ソームズ》 年代不詳
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
【第3回目 <カラー>】 4月25日(土)
私は単純なものの美を信じている。もっとつまらないと思われているものに、
興味深いものが潜んでいると信じているのだ。 by Saul Leiter
私たちは色彩の世界で生きている。私たちは色彩に囲まれているのだ。 by Saul Leiter
ソール・ライターが撮影した一連のカラー写真は、当時のプリント技術や経費など様々な理由によって、プリントされることのないまま、長きにわたって未現像、あるいはスライドの状態で眠り続けていた。
1994年頃、英国の写真感材メーカーがカラー・プリント制作のための助成を申し出たことで状況は一変する。ニューヨークの老舗写真ギャラリーで、1940年代後半から50年代に撮影されたカラー・プリントが初披露された瞬間は、まさに“歴史的”なものだった。「カラーのパイオニア」ソール・ライターの伝説のはじまりである。
《雪》1970年
《パーキング》1950年代
《緑のドレス》1957年頃
《MR.》1958年頃
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
【第2回目 <ファッション>】 4月18日(土)
私の好きな写真は、
何も写っていないように見えて片隅で謎が起きている写真だ。 by Saul Leiter
スタジオより屋外での撮影を好んだライターの「非セッティング」写真。独特の抒情性を生み出す光のとらえ方、モデルが気を抜いた瞬間をとらえる覗き見的手法、ガラスや鏡を利用したキュビズム的構図など、ファッション写真が、ソール・ライターにとっての独自の様式を探求する実験場でもあった。
《Harper’s Bazaar》1960年代
《Harper’s Bazaar》1960年頃
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
【第1回目 <モノクローム>】 4月11日(土)
私はシンプルに世界を見ている。それは、尽きせぬ喜びの源だ。 by Saul Leiter
ソール・ライターは、自宅のあるニューヨークのイースト・ヴィレッジ周辺での撮影を好んだ。
低層階の建物が並び、摩天楼にさえぎられることのない広い空、微妙な光の表情、天候によって変わる空気が織りなす日常の瞬間は、ライターにとって格好の被写体であった。
ライターのモノクロ作品は、伝統的な手法を用いながら、自身の思考と感情を映し込むことによって、それまでのストリート写真にはなかった時に詩的で幻想的ですらある都市のイメージを創出している。
《高架鉄道から》 1955年頃
《五番街》 1970年頃
《花》1952年頃
《水兵たち》1952年頃
作品すべて、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
展覧会概要
アメリカ・ペンシルバニア州に生まれたソール・ライター(1923-2013)は、1950年代からニューヨークで第一線のファッション・フォトグラファーとして活躍していましたが、1981年、5番街にあったスタジオを閉鎖し、表舞台から姿を消しました。しかし、2006年、ドイツのシュタイデル社から出版された初の写真集『Early Color』が大きな反響を呼び、各国で次々に展覧会が開催されるようになり、2013年にはドキュメンタリー映画が公開(日本公開は2015年)されるなど、すでに80歳を超えていたソール・ライターは再び脚光を浴びることになったのです。2017年、日本で初めて開催された個展は、大きな話題となりました。天性の色彩感覚によって「カラー写真のパイオニア」と呼ばれた個性と才能は、彼が亡くなった今も生き続けています。本展では、2014年に創設されたソール・ライター財団が管理する膨大な作品資料のアーカイブから、選び抜かれた作品を展覧します。
《帽子》1960年頃
《『ハーパーズ・バザー』》
1969年2月号
《赤い傘》 1958年頃
全て、ソール・ライター財団蔵 © Saul Leiter Foundation
イベント情報
【ギャラリー・トーク】
会場:美術館「えき」KYOTO
開催日時:4月12日(日) ①午前11時から ②午後2時から
ゲスト:佐藤正子氏 (本展企画・コーディネーター)
※各回約30分
※マイクを使用し、会場内を移動しながらお話しします。
※事前申し込み不要。ご参加は無料ですが、美術館入館券は必要です。
※混雑した場合は、入館制限をさせていただく場合がございます。